―粉雪の降り積もる中で―[3]
「スマ…、スマのその左目は何があったんスか?」
いつかはくるだろうと思っていた質問。
でも……
でも、何でよりによって今日なんだろうか。
神様
もし、貴方がこの出来事を起こしたというのなら、
ボクは貴方を殺したい……
「え、え〜と…きょ、今日はその話やめとこヨ?ま、また今度話してあげるからサ。
ほ、ほらほら、星がとってもきれいダヨ?」
ボクは少しどもりながらアッシュに言う。
どうしてもこれだけは知られちゃダメだから。
アッシュがそのことを知ったら、ボクたちは一緒にいられなくなっちゃうから。
「スマ……」
だから…
だから、お願い…アッシュ…
「イヤッス!」
一瞬、何と言われているのか理解できなかった。
「え?」
「イヤッス!!」
「あ、アッシュ?」
何を言っているのか理解出来ても、納得が出来ない。
ダメだって言ってるのに分からないんだろうか?
アッシュがこれまでボクに逆らうことなんてほとんどなかった。
でも…でも、ボクは、
もしかしたらこれから起こることに、気が付いていたのかも知れない…。
「オレたちは恋人同士だから……だから隠し事はダメッス」
…………アッシュは怖いもの知らずだ。
きっと、豊かで暖かい家庭で、ぬくぬくと育ってきたんだろう。
「アッシュ…」
「はいッス」
…もう、どうなっても知らないんだから。
「ボクはね…、気が付いた時にはもう、一人だったんだ」
―そう、本当に…父も母も、いないかも知れないけど、兄弟も…、
一度たりとも顔を見たことがない。
物心付いた時には、どこか分からない無機質な部屋に一人……。
どうしようもない恐怖が自分を襲ったのを、今でも覚えてる。
寒くて…暗くて…、
そのあとのことはあまり覚えていない。
どうやってそこから出たのかすら記憶がない。
そして…―
「ボクは何とか生きていくために…、その…」
アッシュは言葉を探すかのように
「…どうしたんスか?」と。
「ねぇアッシュ……キミはボクがどんな"コト"をしてきたとしても…好きでいてくれるよね?」
じゃないと…じゃないと、ボクは…
「もちろんッス!」
なら…、それが本当に本当なら…
言ってもいいのかも知れない。
今こそ、昔の罪から開放されることができるのかもしれない。
「アッシュ…、ボクね…」
ボクは一度そこで言葉を句切る。
そして、言葉を……
忘れかけていた非日常の記憶とともに…
「ボクは、ずっと援助交際をしてきたんだ…」
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